オープンイノベーション促進税制とは?
オープンイノベーションは、自社以外の企業や組織などが持っている知識や技術力を活用して市場機会を増やすことを目的としています。
海外などでは積極的に行われているものの、日本ではオープンイノベーションの実施状況は消極的です。そのような背景もあり、日本でも令和2年からオープンイノベーションを促すための「オープンイノベーション促進税制」という制度が作られました。
今回は、オープンイノベーション促進税制について、制度内容や背景、メリットなどをご紹介します。また、どのような企業が利用できるのかや注意点なども詳しく解説します。
オープンイノベーション促進税制を詳しく知りたい方や、該当するかどうか気になる方はぜひ最後までご覧ください。
- 1. オープンイノベーション促進税制とは
- 1.1. オープンイノベーション促進税制は比較的新しい制度
- 1.2. 大手企業とスタートアップ企業の両方にメリットあり
- 2. オープンイノベーション促進税制の概要
- 2.1. 制度の目的について
- 2.2. 令和5年度税制改正
- 2.3. 対象期間
- 2.4. 新規出資型とM&A型がある
- 3. オープンイノベーション促進税制の5つのメリット
- 3.1. 対象となる法人は節税効果が期待できる
- 3.1.1. スタートアップへの成長を早められる
- 3.1.2. スタートアップ企業は出口戦略としてM&Aを実現しやすい
- 3.1.3. 中小企業も出資しやすい
- 3.1.4. 出資する企業側は自社にない技術やノウハウを取得できる
- 4. オープンイノベーション促進税制を受けられる要件
- 4.1. 出資側の対象法人となる要件
- 4.2. スタートアップとして受けられる要件
- 5. オープンイノベーション促進税制の注意点
- 5.1. 特別勘定の経理と出資後5年間にわたる特別勘定の扱い
- 5.2. オープンイノベーションが継続できない場合は特別勘定の取り崩し
- 6. まとめ
オープンイノベーション促進税制とは
オープンイノベーション促進税制は、国内の対象法人等によるスタートアップ企業への投資を促進するために作られた制度です。対象法人がオープンイノベーションを目的としたスタートアップ企業の株式を取得する場合、取得価額の25%が控除されます。
オープンイノベーション促進税制では、節税だけでなく、スタートアップ企業へ成長を促すことも考えられています。
ここでは、オープンイノベーション促進税制の特徴について解説します。
オープンイノベーション促進税制は比較的新しい制度
オープンイノベーション促進税制は、令和2年の4月に導入された比較的新しい制度です。
当初は新規発行株式の取得のみ(通称「新規出資型」)のみの制度でしたが、令和5年度の税制改正でM&Aでの発行済株式の取得(通称「M&A型」)でも適用されました。
つまり、スタートアップで買収されたM&Aも対象となるため、出口戦略にも繋げることができます。
大手企業とスタートアップ企業の両方にメリットあり
オープンイノベーション促進税制は、大手企業の節税だけが目的ではありません。スタートアップ企業側にも大きなメリットがあります。
スタートアップ側は、大企業からの出資を受けることで大きな成長を期待できます。つまり、大手企業とスタートアップ企業の双方にメリットが生まれるのです。
オープンイノベーション促進税制の概要
オープンイノベーション促進税制の概要について解説します。
現在、オープンイノベーション促進税制は「新規出資型」と「M&A型」があります。
制度の目的について
先述した通り、国内の対象法人等がオープンイノベーションを目的としてスタートアップ企業の株式を取得した場合に、取得価額の25%を控除するというものです。制度の目的は、出資した企業とスタートアップ企業双方が成長することを目的としています。
一企業の枠を超えて革新的なアイデアを創造していくことで、将来の企業への成長を期待できるのです。
令和5年度税制改正
新しい制度のオープンイノベーション促進税制ではありますが、令和5年度に大きな税制改正がありました。
その際に追加されたのが「M&A型」の新設です。「M&A型」を利用することで、スタートアップ企業の出口戦略対策にもなります。
出口戦略とは、出資者の利益を確定させる戦略です。出口戦略のハードルが下がることで、ベンチャー企業からの出資を受けやすくなるのです。
対象期間
オープンイノベーション促進税制の適用期間は、2020年4月1日〜2022年3月31日でした。
しかし、税制改正を繰り返し現在延長されており、2026年3月31日までとなっています。
新規出資型とM&A型がある
現在、オープンイノベーション促進税制は、新規出資型とM&A型があります。
新規出資型 | M&A型 |
---|---|
スタートアップ企業の新規発行株式を一定額以上取得した場合に25%の控除を受けられる制度 | スタートアップの成長に資するM&Aを行った場合、発行済株式数の取得価額25%を控除できる制度 |
オープンイノベーション促進税制の5つのメリット
ここからは、オープンイノベーション促進税制の4つのメリットをご紹介します。
対象となる法人は節税効果が期待できる
出資する側の法人は、オープンイノベーション促進税制を利用することで節税効果が期待できます。
例えば、法人税率が23.2%の企業がスタートアップ企業に1億円の出資した場合で考えてみましょう。
【法人税率が23.2%の企業がスタートアップ企業に1億円の出資した場合】
出資額1億円×25%=2,500万円が控除される
2,500万円×23.2%=580万円
控除額の2,500万円のうち、法人税率をかけた580万円が節税されるのです。さらに、スタートアップ企業の新技術やビジネスモデルによる成長で更なる収益獲得にも期待できます。
スタートアップへの成長を早められる
スタートアップ企業側のメリットは、成長を早められる点です。本税制の要件として、対象法人がスタートアップ企業に必要な協力を行うことなどが挙げられています。
つまり、スタートアップ企業は出資する法人が持っている設備やサービスの恩恵を受けることになり、より飛躍的な成長が期待できるのです。
また、本税制を利用することで、スタートアップ企業側の市場拡大も望めるようになります。
スタートアップ企業は出口戦略としてM&Aを実現しやすい
本税制のM&A型では、スタートアップ企業側のメリットとして出口戦略としてM&Aを実現しやすくなります。スタートアップ側が出口戦略でM&Aを実現しやすくなるため、ベンチャー企業からの出資を受けやすくなる可能性も広がります。
新規上場株と比べても、出口戦略でのM&Aは短期間で実現しやすく、新規事業の進出にも取り組みやすくなります。
中小企業も出資しやすい
本税制は、出資側の企業は大企業だけではなく中小企業の出資もしやすい制度となっています。大企業の場合の出資額は1億円以上に対し、中小企業の出資額は1,000万円以上とハードルが下がるので取り組みやすいでしょう。
他にもオープンイノベーションを利用することで、外部の技術やノウハウなどを取り入れることで、新しい価値を高めることができるのです。
出資する企業側は自社にない技術やノウハウを取得できる
出資する企業側は、投資先のスタートアップ企業のノウハウや斬新な技術力などを知ることができます。スタートアップ企業のノウハウや技術力を直接見ることができるため、自社に取り入れることもでき、大きな進化に繋げることができます。
その結果、技術革新などの革新的な価値を生み出すことも可能になるのです。
オープンイノベーション促進税制を受けられる要件
オープンイノベーション促進税制を受けられる要件について解説します。
オープンイノベーション促進税制は、どの企業でも税制を受けられるわけではありません。ある一定の要件を満たす必要があります。
ここでは、オープンイノベーション促進税制を受けられる要件を、出資側とスタートアップ企業側とで分けて解説します。
出資側の対象法人となる要件
出資側の対象法人となる要件は以下の通りで、いずれも該当するものとされます。
スタートアップとして受けられる要件
スタートアップとして受けられる要件は以下の通りで、いずれも該当している必要があります。
オープンイノベーション促進税制の注意点
オープンイノベーション促進税制の利用にあたって注意すべき点が2点あります。
- 特別勘定の経理と出資後5年間にわたる特別勘定の扱い
- オープンイノベーションが継続できない場合は特別勘定の取り崩し
詳しく解説します。
特別勘定の経理と出資後5年間にわたる特別勘定の扱い
オープンイノベーション促進税制で所得控除を受けたい場合は、対象となる取得株式(特定株式)の25%以下の金額を特別勘定として経理処理をする必要があります。
また、対象法人はその株式取得の日から5年間は特別勘定を維持しなければなりません。
オープンイノベーションが継続できない場合は特別勘定の取り崩し
オープンイノベーションの継続ができない場合は、特別勘定を取り崩さなければなりません。取り崩した金額は、その事業年度の税制申告で益金算入します。
まとめ
今回は、オープンイノベーション促進税制についてご紹介しました。本税制は、出資する側とスタートアップ側のそれぞれに利点がある制度です。
しかし、本税制は複雑なこともあり専門知識を持った税理士や会計士に相談した方が良いでしょう。